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札幌高等裁判所 昭和25年(う)68号 判決 1950年6月06日

控訴人 被告人 杉原邦夫

弁護人 岩沢誠

検察官 小松不二雄関与

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌地方裁判所岩内支部に差戻す。

理由

弁護人岩沢誠の控訴趣意は末尾に記載のとおりで、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

控訴趣意第一点について。

本件記録によると、本件は住居侵入、窃盗罪として起訴せられ、原裁判所において審理中、昭和二十四年十二月九日の第八回公判期日において検察官は同日附訴因罰条の変更請求書を朗読し、従前の住居侵入窃盗を撤回して賍物牙保、同故買に変更の請求をし、原裁判所は賍物牙保、並に賍物故買罪として審理判決したこと明らかである。しかして、右起訴状には、公訴事実として、被告人は、第一、昭和二十四年二月十日頃より同年三月五日頃迄の間に古宇郡泊村二十八番地内田長三方倉庫内に侵入し、同人所有に係る洋服上衣等十七点を窃取し、第二、同年五月十八日より同月二十五日頃迄の間岩内郡岩内町字相生百十二番地佐藤利三郎方倉庫内に侵入し同人所有に係るラシャ冬オーバー等二十四点を窃取し

たものである旨及び罪名として刑法第一三〇条第二三五条の記戦があり右訴因罰条の変更請求書には公訴事実として被告人は第一、昭和二十四年二、三月頃に岩内郡小沢駅から札幌方面に進行中の列車内に於いて氏名不詳の男から依頼を受け即日賍物であることの情を知りながら、窃盗賍品である羽二重友禅反物一反外衣料十一点を小樽市住ノ江町四丁目二番地に於て松本かめ江に対し合計一万円で売却方斡旋して以て賍物の牙保を、第二、同年五、六月頃に札幌市狸小路露天街附近に於て中村と称する朝鮮人から賍物であることの情を知りながら窃盗賍物である大島男着物一枚外二一点を金一万千八百円で買受け以て賍物の故買を為したものである旨及び罪名として第一の事実は賍物牙保、第二の事実は賍物故買、刑法第二五六条第二項の記載があり、

原判決には認定事実として、被告人は第一、昭和二十四年四月初旬頃余市郡余市駅附近を札幌へ向け進行中の列車内で氏名不詳の男子から窃盗賍品である羽二重友禅反物一反外衣料一〇点売却方依頼を受けそれが賍品であるかも知れないと思いながら敢て、小樽市住ノ江町四丁目二番地に於て松本カメ江に買受け方をすすめて承諾させ、両者の間にあつせんして品物及び代金を授受させ、以て賍物の牙保をなし、第二、同年五月二十五日頃札幌市狸小路露天街に於て中村と自称する朝鮮人から盗難品である大島男着物一枚外衣服布地二一点をそれが賍物であるかも知れないと思いながら敢えて代金一万八千円で買受け以て賍物を故買したものであると認定し刑第二五六条第二項を適用している。

そこで、先づ起訴状記載の公訴事実第一点について原裁判所がなした右のような訴因及び罰条の変更が許されるかどうかについて考えるに、刑事訴訟法第三一二条によれば訴因又は罰条の変更は公訴事実の同一性を害しない限度において許されるのであるが、公訴事実の同一性を害しない限度というのは、その基本的事実関係が同一と認められる場合をいうものと解する。しかして起訴状記載の公訴事実、第一の基本的事実関係は被告人が内田長三所有の洋服上衣等一七点を不法に領得した事実であるが、訴因罰条の変更請求書記載の公訴事実第一、及び原判示第一の事実は氏名不詳者が松本かめ江に対し、右物品を売却するに際し、その斡旋をした事実であつて右記訴状記載の公訴事実第一とその基本的事実関係は同一でない。したがつて右訴因及び罰条の変更は許すことはできないのであつて、その変更を許した原判決はこの点において訴訟手続に法令の違反があり、この違反は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決はこの点において違法がある。

よつて原判決はこの点において破棄を免れないからその他の点については判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十九条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条本文により本件を原裁判所である札幌地方裁判所岩内支部に差し戻すこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 黒田俊一 判事 西田賢次郎 判事 村上喜夫)

控訴趣意

第一点原判決は法令の適用を誤つている。

本件に関する札幌地方検察庁岩内支部検察官検事天野三三の昭和二十四年八月六日附の被告人に対する起訴状中の公訴事実として掲げられた訴因によれば、

第一、昭和二十四年二月十日頃より同年三月五日頃迄の間に古宇郡泊村二十八番地内田長三方倉庫内に侵入し同人所有に係る洋服上衣等十七点を窃取行為

第二、同年五月十八日より同年二十五日頃迄の間、岩内町字相生百十二番地佐藤利三郎方倉庫内に侵入し同人所有に係るラシャ冬オーバー等二十四点を窃取行為

以上二点であることが明らかであり、その罪名及び罰条としては、住居侵入窃盗、刑法第百三十条、同第二百三十五条が示されている。しかるに昭和二十四年十二月九日の原審第八回公判において検察官は訴因罰条の変更請求書を朗読提出して、従前の住居侵入窃盗を撤回して新に賍物牙保、同故買を訴因として主張した。

この変更された公訴事実の訴因は、

第一、昭和二十四年二月より三月頃迄の間に被告人は岩内郡小沢駅から札幌方面に進行中列車内において氏名不詳の男から依頼を受け即日賍物であることの情を知りながら窃盗賍品である羽二重友禅反物一反外衣料十一点を小樽市住ノ江町四丁目二番地に於て松本かめ江に対し、合計一万円で買却方斡旋し以て贓物牙保を行つた。

第二、同年五、六月頃に札幌市狸小路露店街附近に於て中村と称する朝鮮人から贓物であることの情を知りながら窃盗贓物である大島男着物一枚外二十一点を金壱万壱千八百円で買受け以て贓物の故買を行つた。

右の通りであつて撤回された当初の訴因とは全く別個の事実を主張するものであり、その間に全然同一性が認められない。かように前訴因と後訴因とが全く別個の犯罪事実に属し、その間に全然同一性が存在しない場合においてはその訴因の変更を許すべきものでないことは刑事訴訟法第三百十二条第一項の趣旨に照し明白である。

しかるに原審はこの同一性を害する訴因の変更を許し、これに対して判断したことは刑事訴訟法第三百十二条第一項の適用を誤つたものである。しかもこの適用の誤がなかつたならば、被告人は検察官の撤回した前訴因に対して無罪の判決を求め得べき有利なる状態にあつたことが本件記録上明白であるので、帰するところ明らかに判決に影響を及ぼすべき誤であるといわなければならない。よつて、これを控訴趣意の第一点とする。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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